平成30年に創設された特例事業承継税制の要件 | 冨永正見税理士事務所

特例事業承継税制の要件

目次

平成30年の税制改正にて、10年間限定の特例事業承継税制が創設されました。 一定の手続きによって一括で贈与等をした非上場株式等の贈与税額が、全額納税猶予されます。 今回の記事では、この特例事業承継税制を適用するための要件について紹介しています。 特例事業承継税制の詳細な内容についてはこちらか、 国税庁のページもしくは 中小企業庁のページをご覧ください。

特例事業承継税制の要件

2018年6月27日

特例事業承継税制の詳細な内容についてはこちら

先代経営者の要件

先代経営者は、次の要件を満たす必要があります。

  1. 会社の代表者であったこと (贈与の場合には、贈与までに代表権を返上する必要があります。 相続の場合は直前に代表者であってなくても良いです)

  2. 被相続人と同族関係者で発行済議決権株式総数の50%超の株式を保有し、 且つその同族関係者(特例経営承継相続人等を除く) の中で筆頭株主であったこと(代表者であった当時のいずれかの時点と相続開始直前に要件を満たす必要がある)

後継者(受贈者)の要件

贈与の場合の特例経営承継受贈者(後継者)は次の要件を満たす必要があります。

  1. 会社の代表者であること (代表者はその者以外にいても良い)

  2. 20歳以上であり、且つ役員就任後3年を経過していること

  3. 同族関係者と合わせて発行済議決権株式総数の過半数を保有し、 且つ、その同族関係者の中に保有株式数の上位者がいないこと (認定対象者は代表権を有する承継計画に記載された3人までに限る)

  4. 贈与の時から認定申請日まで引き続き贈与により取得した特例認定贈与承継会社の株式のすべてを保有していること

後継者(相続人)の要件

相続の場合の特例経営承継相続人等(後継者)は次の要件を満たす必要があります。

  1. 特定代表者であった被相続人の死亡の直前において役員であったこと(被相続人が60歳未満であった時は役員でなくてもよい)

  2. 相続開始の日の翌日から5ヶ月を経過する日において代表権を有していること

  3. 相続又は遺贈により株式等を取得した代表者であり、同族関係者と合わせてその過半数を保有し、 且つその同族関係者の中に保有株式数の上位者がいないこと (認定対象者は代表権を有する承継計画に記載された3人までに限る)

  4. 被相続人の相続開始の時から認定申請日まで引き続き相続又は遺贈により 取得した特例認定相続承継会社の株式をすべて保有していること

事業承継適用会社要件

特例事業承継税制の適用対象となる会社は、次の図に示した業種に応じて資本金の額又は 従業員数いずれか少ない方に該当している会社です。

特例事業承継税制の適用対象となる中小企業
特例事業承継税制の適用対象となる中小企業

さらに、次の1から10までの要件のすべてに該当している必要があります。

  1. 性風俗関連特殊営業に該当する事業を営む会社(以下「風俗営業会社」)に該当しないこと

  2. 資産保有型会社に該当しないこと

  3. 資産運用型会社に該当しないこと

  4. 直近の事業年度における総収入金額が1円以上であること

  5. 常時使用する従業員の数が1人以上であること

  6. その中小企業者の特定特別関係会社(その会社及びその代表者とその同族関係者が50%超 の議決権を有する場合の会社)が上場会社等、大法人等又は風俗営業会社に該当しないこと

  7. その中小企業者の代表者が経営承継受贈者又は経営承継相続人であること

  8. その中小企業者が拒否権付種類株式(黄金株)を発行している場合には、その種類株式をその中小企業者の 代表者以外が有していないこと

  9. 非上場株式等であること

  10. 相続開始の日以降5月を経過する日における常時使用する従業員数を、 相続開始の日における常時使用する従業員数で除した数が80%以上であること

ただし、贈与税の納税猶予から相続税の納税猶予への切替確認の際には、上図の中小企業の範囲に該当しなくても、 また上記要件の9番の非上場株式等でなくなっていても、相続税の納税猶予を受けることができます。

雇用確保要件

贈与又は相続等をして事業承継税制の適用を受けると、贈与の申告期限又は相続税の申告期限から5年間の事業継続期間の間、 雇用確保要件を満たさないと納税の猶予が取り消され、猶予税額の納付が必要となります。

その雇用確保要件には「常時使用する従業員数が5年平均で贈与又は相続時の従業員数の 80%を下回らないこと」という内容のものがあります。 特例事業承継税制では、この雇用確保要件を満たせない場合でも、認定経営革新等支援機関の意見が記載されている 「雇用確保要件を満たせない理由を記載した書類」 を都道府県に提出すれば納税猶予の取り消しはないものとされます。 したがって、雇用確保要件は実質的には撤廃されたことになります。

事業継続要件

雇用確保要件が実質的に撤廃されたとはいえ、次のような事業継続要件があります。 万が一のことがない限り、これらに該当して認定を取り消されることはないと考えられますが、 留意しておく必要があります。

  1. 特例認定承継会社が報告・届出を怠った時

  2. 特例経営承継受贈者等が代表者でなくなった時 (不慮の事故で代表者を務められなくなった場合(精神障害者保険福祉手帳1級、身体障害者手帳1級又は2級、要介護5の認定)などには 代表者退任でも継続可)

  3. 特例認定承継会社が倒産又は解散したとき

  4. 特例経営承継受贈者等が納税猶予適用対象株式を譲渡・贈与したとき (継続保有は保有している株式のうち納税猶予適用分のみ)

  5. 特例経営承継受贈者等が持株比率要件 (後継者と相続関係者で発行済議決権株式総数の50%超を保有し、且つ後継者が同族内で筆頭株主) を満たさなくなったとき

  6. 特例認定承継会社が適用対象外(上記事業承継適用会社要件を満たさなくなった)になったとき

  7. 特例認定承継会社が資産保有型会社又は資産運用型会社になったとき (5年経過後についてもこれらに該当すると猶予打ち切り)

  8. 特例認定承継会社が減資を行ったとき(欠損補填目的及び全額を準備金とする場合を除く。)

  9. 特例認定承継会社が組織変更(株式会社から合名会社への変更等)の際に株式以外の財産の交付があったとき

  10. 特例認定承継会社の総収入金額が0円になったとき

経営の環境変化を示す要件

現行の事業承継税制では、経営環境の変化にかかわりなく承継時の株価を基に納税額が算定されます。 しかし、これでは承継した後、会社の経営状態業界全体の景況の変化によって、 売却・合併による消滅・解散時の株式評価が変化し、 相続時の株式評価との間に乖離が生じるリスクがあります。

現行の事業承継税制では、民事再生や会社更正の時にその時点の評価額で相続税を再計算し、 超える部分の猶予税額を免除する規定がありますが、 特例事業承継税制では、経営環境の変化を示す要件を満たす場合には、売却・合併による消滅・解散時においても 同様の減免制度があります

売却・合併による消滅・解散時の減免制度の概要
売却・合併による消滅・解散時の減免制度の概要

  1. 直前の事業年度終了の日以前3年間のうち2年以上、特例認定承継会社の経常損益が赤字である場合

  2. 直前の事業年度終了の日以前3年間のうち2年以上、特例認定承継会社の売上高がその年の前年における売上高に比べて減少している場合

  3. 直前の事業年度終了の日における特例認定承継会社の有利子負債の額が、その日の属する事業年度の売上高の6ヶ月分に 相当する額以上である場合

  4. 特例認定承継会社の事業が属する業種にかかる上場会社の株価 (直前の事業年度終了の日以前1年間の平均)が、その前年1年間の平均より下落している場合

  5. 特例認定承継者が特例認定承継会社における経営を継続しない特段の理由があるとき

減免制度の計算例
減免制度の計算例